発達障害ちゃんと赤ちゃん

37歳無職。ADHD。同い年の夫(双極性障害)と2歳3か月の息子と世田谷区に暮らす。わりといつも離婚5秒前。

短編小説① スイートホーム

現実が辛いので、しばらくフィクションをお届けします。



毎日朝眼が覚める度に「嘘でしょ」と思う。

夫の浮気が判明してから1年経つが、1日も欠かさずにそう思う。
「こんな現実嘘でしょ」と。
安普請のアパートの墨を刷いたように薄汚れた白い天井、隣に眠る幼い息子の寝息、もがれたように力の入らない手足、隣の部屋から聴こえる夫の鼻をかむ音。
醜く哀れなゴミムシの出す音。

そんな現実を受け入れるために天井の睨みつけ息を止める。
どっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっ
自分の鼓動の音が頭の中で響く。
どっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっどっ
大丈夫。
出口はある。
私が作る。

ふぅー(大字)
大きな息を吐く。


「おかあしゃん、おっきした?」

私のため息じみた大きな息で息子が目を覚ましてしまったようだ。

「うん。おはよう、たまき」
「おはようごじゃいます!」
「ふふふ、たまきは今日もかわいいね」
2歳になったばかりの息子は、とても、とても、かわいい。
その笑顔に毎朝奇跡を見いだす。
このこのためならなんでもできる。

コールタールのようにどろどろした憎しみと嫌悪と嫉妬が占める感情の奥底から、自分の母親としての人格を釣り上げる。
コールタールの海から理性という蜘蛛の糸で釣り上げられた光り輝くハリボテの母性よ!さあ、私を笑顔にして!

にっこり。

よかった。まだ笑える。

さあ、私は母親だ。母親だ。母親だ。

「今日は朝ごはん、何食べる?」
「ふわふわ卵ごはん!」
「いいよー」
「いっちょにつくる!」
「いいよー」

夫がまた鼻をかむ音が聞こえる。
殺意で鳥肌が立つ。

出口はある。
私が作る。
今日がその日かもしれない。