発達障害のことと家族のこと

39歳。ADHD診断済み。4歳の息子と猫2匹と暮らす。同い年の夫と別居中。

父の呪い③

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②の続きです。

 

祖母の鬱は入退院を繰り返しながら、少しずつ良くなっているようにみえました。

もう今が何月何日なのかわかっているし、私が誰なのかもわかっているし、着替えも自分でできるし、一日のうちのほんの数時間だけれど布団の外で過ごせるようになったし、少しなら会話もできる。

それは喜ぶ出来ことなのに、私は祖母の相手に疲れてきていました。

毎日のお見舞い、ちぐはぐな会話の話し相手、外出の付き添い、退院したら授業を休んで身の回りの世話。

鬱を発病する以前の祖母とは似ても似つかない萎びた祖母の姿。

祖母の鬱が長引くにつれ、幼く利己的な私は、こんなのおばあちゃんじゃない、見たくない、一緒にいたくない、戻ってよ、冗談じゃないよ、戻ってよ、いい加減にしてよと思うようになっていました。

父は祖母が精神科に入院していることを隠していましたし、父も母も祖母が鬱なんて信じていませんでした。

私が勝手に言っているだけだと、心配性の娘がおばあさんを入院させてしまったよ、困ったものだというのが父と母の見解なのでした。

いつだって事なかれ主義で、都合が悪いことには耳を塞ぐ両親に祖母の主治医の「おばあ様は重度のうつ病です。長期的な治療が必要です」という言葉は届きません。

「あいつは藪医者だな」

「そうね。最初からうさんくさいと思ってたわ」

「まるで俺らが悪いみたいに言いやがって」

精神科医なんて医者の中の落ちこぼれなんだから、まともに相手することないわ」

「まあ、おばあさんもあいつ(私)もこの家から出て行って一回世間で苦労したらいい。お爺さんに甘やかされていい気になって何もできないくせに」

「そうよ。女のくせに大学なんて行って」

「あいつ裏口入学なんじゃないか?お爺さんの金で」

「さあ」

「そうだろう。みんなと同じように女が行く大学(短大)に大人しくいけばいいのに。変わり者で反抗ばかりして」

「あの子の方が精神病なんじゃない」

「おばあさんの遺伝か。そうかもしれんな」

キチガイ

キチガイ

爆笑爆笑爆笑爆笑爆笑爆笑爆笑

 

お父さん、おかあさん、病室に居る私にもおばあちゃんにも全部聞こえてるよ。

あなたたちはなんて醜いんだろう。

ドアを開けて「おばあちゃんが寝ているから大きな声で話さないで」というと二人は少し気まずそうに目くばせし合い、父がずいっと立ち上がると私のことを上から見下ろして「その人を馬鹿にした目つきをやめなさい。冗談も通じんのか」と言い、母は「お父さんのことをそんな目で見るなんて、怖い子」と言いました。

二人は声も体もとても大きい。

とても。

そうね。私は怖いかもしれない。

でもそれはいけないことでしょうか。

あなたたちに批判されることでしょうか。

 

実家を出て本当に良かったと思いました。

確かに私の家は、信じられないくらい壁の薄いアパートだし、隣の住人のため息まで聞こえるのには驚いたけれど、最近は隣人の唱えるコーランの声が心地よいと感じるし、入り方がわからくてトイレがずぶ濡れになったユニットバスも上手に入れるようになったし、ブヨブヨと浮き沈みするファッションフロアも慣れれば掃除が楽でいい。

洋服もアクセサリーも外商さんが持ってくるんじゃなくて駅前のデパートに自分で買いに行くのが楽しい。

一つしかないコンロで料理を作るのも上手になった。

ここにいれば、ここから出なければ、誰も私を傷つけない。私を否定しない。それはなんてなんてなんて素晴らしいのだろう。

大学に行って授業を受ける。授業はとても面白い。勉強がとても楽しい。

友達と沢山お話しする。あまりにもあっという間に時間がたつので驚く。

バイトに行く。デパートで貴金属を売る。

同僚も買いに来る人もいろんな人がいて面白い。

休憩室で煙草を吸いながらたくさんお話しする。

みんな明るくてきれい。

アパートの帰って勉強する。

知りたいことがどんどんあふれてくる。

本を沢山沢山読む。

ああ、自由は素晴らしき。

 

父の呪いは解けていないし、祖母は元にもどらないし、だから私は大変なことになるのだけれど。

その大変なことは次回。