子どものいる生活

息子のこと、夫のこと、私の生活のあれこれ。順風満帆。

救急搬送

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ガガガガガガガガ

MRIの耳元で道路工事音されてるみたいな音に起こされて一瞬だけ意識が浮上する。

頭が割れるように痛い。

心臓の鼓動に合わせて後頭部がガンガンと痛む。

救急車で病院に搬送され、看護師に名前を尋ねられる前にもう「痛み止めをください」とお願いしたのにまだ痛み止めは貰えていない。悲しい。こんなに頭が痛いのに。

ストレッチャーに乗せられたままに病院内のあちこちに連れて行かれ、あちこちでさまざまな検査を受けて、その間ずっと頭が割れるように痛い。

ストレッチャーで運ばれながら検査を受けながら時折痛みで意識が飛ぶ。

意識はゆめうつつの中に落ちて漂う。

(私はお花屋さんに行きます。あなたはこれから戦争へ行ってください。私はここに花の種を蒔きます。ねぇきいてる?どうしていつも私の話をきかないの?どうして無視するの?ねぇ?ねぇわかった?ねぇあなたどうして救急車に乗ったの?どうして息子をつれてあなたも救急車に乗ったの?やめて。いやだから降りて)

 

ガガガガガガガガガガ

再び、音に起こされ目を開く。

目前に白いものがある。私は細長い筒状の機械の中に寝そべり上へ下へと動いている。

ああ、まだMRIが終わらないのか、長いなと思う。

痛い頭で考えても、元夫がどうしてあの場にいたのか、どうして救急車に乗って病院までついてきたのかわからない。

あの人まだ病院にいるのだろうか。

これが終わったら帰ってほしいと伝えてもらおう。

頭が痛い。

それに言葉が出てこない。考えがパラパラと飛散してまとまってくれない。なんだか頭が頼りない。

これずっとこのままだと困るな。

一時的なものだといいけど。それにしても頭が痛い。

あの人どうしてついてきたのだろう。

かすかに救急車に乗り込む時の思い詰めたような、苦しそうな元夫の顔が浮かぶが、それが現実のものなのか私が脳内で作り上げたものなのかがわからない。

元夫だけじゃない息子もついてきたのだ。

痛みで立つことも歩くこともできず、救急車に乗せられても痛さのあまりに嘔吐を繰り返すだけの私に息子は「お母さん、このシートベルトどうやってしめるの?」と尋ねたのだ。

こんな状態でも私はこの子の面倒を見なくちゃいけないのか、質問に答えてやらないといけないのかと思うとぐっと喉が詰まり目の前が暗くなった。

どうして息子を乗せたの。

どうしてあなたもついてくるの。

やめて。

ひとりにして。

降りて。

今はあなたたちの世話ができないの。

そう思って口をパクパクしているうちに救急車はサイレンを鳴らし走りあっというまに病院に着いた。

 

MRIを終えて検査室の外に出ると幾分か頭の痛みがマシになっていた。いつの間にか左手の甲に点滴の針が刺されている。これが痛み止めなのかもしれない。

 

ストレッチャーのまま医師の診察を受けた。脳の血管が詰まっているとのことだった。

MRIで撮った私の脳の断面を指差し、医師が「ここ白くなってるでしょう。ここの血管が詰まってます」と言った。

「そうですか」

そうか、血管が詰まると頭が痛くなるのか。

「それでですね。詰まりをとる治療というのを進めていかないといけないので、このまま入院してもらってですね」

入院。入院はできない。息子がいるし、元夫は留置所から出てきたばかりだし。

私が身許引受人になることを条件に出してもらったのだから入院なんてできない。

そういうと医師はでは入院は3日後からにしましょうと言ってくれた。

そして部屋着の私に私物のジャージを着せてくれた。

「これで帰れますよ」と私の後ろに立ち右腕と左腕をそっと袖に通して前にまわるとファスナーをあげてくれた。小さな子供にするように。

私は脳の血管が詰まって小さな子供程度の知能になったのかもしれないと少し心配になったけれど、医師に尋ねるとそうではないらしかった。

医師に借りたジャージを着て、痛み止めを処方されてタクシーで自宅に戻ると元夫がいた。

私のことをとても心配している様子だった。

私もあなたをとても心配したんだよと言いたかった。

やっぱりまだ頭が頼りなくて言葉がうまく出てこなくて言えなかったけど、私もあなたをとても心配したの。

心配して心配して電車を乗り継いで留置所に行って、あちこち手を尽くして出てこられるように頑張ったの。

心配したの。

言葉が出てこないからじっと元夫の目を見た。

元夫も私の目をじっと見た。

その目は私の知っている目で、それは、そこには私にはわからないけど確かに彼の感情が宿っていて、私は、あ、と思った。

私がどうして留置所に行ったのか。

元夫がどうして救急車に乗ったのか。

私達は、家族なのかもしれない、そう思い至った。

そうか。

離婚したのに。

離婚したのに、病める時も健やかなる時にも、富める時も貧しき時も、私達は助け合ってる。馬鹿みたいに。自分のことより相手のために必死になって。

息子がいるからだろうか。

それとも単に愚かだからだろうか。

私達はなんなのだろう。

「心配してくれてありがとう」と言った。それ以上の言葉は出てこなかった。

家族なんていいものでもなんでもない。いたらいいってものでもない。煩わしいし諍いの元にもなる。私もこの人もお互いの嫌でたまらない部分を知っている。

それでも心配だし、困っていれば助ける。当然のように。

家族。

そうなのかもしれない。